日韓SAREX9年ぶり再開:トランザクショナル化する米国と変容するインド太平洋秩序
時流を読むディープニュース — 2026年6月9日
今日の注目1件
日韓9年ぶりの共同海上演習(SAREX)再開が示すもの
2026年6月7日、海上自衛隊と韓国海軍が五島列島西方で捜索救助演習(SAREX)を実施した。日韓両国の海軍が共同演習を行うのは9年ぶりのことである。
日本側はこんごう型イージス護衛艦「こんごう」(DDG-173)とSH-60K哨戒ヘリ、韓国側は千王鳳型揚陸艦「天字鳳」(LST-689)を派遣した。表向きは「捜索救助」だが、The Diplomatの分析は「これは単なる人道的演習を超えた意義を持つ」と指摘する。
同じ時期にシンガポールで開催されたシャングリラ会議2026では、地域秩序の質的変化が浮き彫りになった。米国は依然として最強のアクターであるものの「より選択的に、よりトランザクショナルに」関与する姿勢を示し、同盟国が前面に出ざるを得ない状況が加速している。さらに中国は「米国が日本を抑制できるか」を試す三角関係的な戦略を採っており、2025年12月のレーダーインシデントでは日中ホットラインへの応答すら拒否した事実が明らかになっている。
引用元: The Diplomat — Beyond Search and Rescue: What the Japan-South Korea SAREX Revival Really Means
The Diplomat — What Shangri-La 2026 Revealed About the Future Regional Order
歴史的文脈:9年間の断絶が生まれた背景
日韓の実質的な軍事協力が凍結されたのは2018年頃にさかのぼる。同年12月、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP-1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した疑いをめぐり両国が激しく対立。これに徴用工問題・GSOMIA(軍事情報包括保護協定)をめぐる摩擦が重なり、日韓防衛協力は事実上の停止状態に入った。
その後、2023年の尹錫悦政権による対日関係修復路線、2024年の歴史問題に関する実務的妥協を経て、両国関係は段階的に改善。日本国内では2026年3月の選挙で保守派が圧勝し(「若い革新派が保守的な圧勝を支持した」という逆説的な現象が注目を集めた)、外交政策の継続性が確保された。9年ぶりのSAREXはその外交的成果の軍事的具現化である。
今後の予想:3つのシナリオ
楽観シナリオ(確率: 35%)
日米韓の安全保障トライアングルが実質的に機能し始め、中国・北朝鮮に対する抑止力が飛躍的に向上する。SAREXは年次化され、2027年には本格的な共同艦隊演習へと格上げされる。米国のトランザクショナル化が逆説的に同盟国の自律的協力を強化する触媒となる。
中立シナリオ(確率: 45%)
経済・安保の実務協力は継続しつつも、歴史問題での本質的な和解は遠く、政権交代のたびに関係が揺れる「ジェットコースター外交」が続く。SAREXは定期化されるが、海上自衛隊と韓国海軍の情報共有の深化は限定的にとどまる。
悲観シナリオ(確率: 20%)
中国が歴史問題や経済圧力を通じて日韓の分断に成功し、韓国が「戦略的曖昧性」へ退行する。米国がより孤立主義的な政策をとる場合、日本は単独での対中抑止力強化を余儀なくされ、防衛費の急増と外交的孤立リスクが高まる。
なぜ重要か
日韓SARExの9年ぶり再開は、ニュースとしては「演習」に過ぎないが、構造的には東アジア安全保障の地殻変動を示す象徴的事象である。
核心は「米国という中心核の求心力が弱まりつつある」という事実だ。シャングリラ2026で示されたように、米国はもはや「何でも引き受ける同盟のハブ」ではなく、コスト・ベネフィットを計算する「取引相手」としての色彩を強めている。これは日本にとって、単に防衛費を増やすだけでなく、周辺国との自律的な多国間安全保障ネットワークを自ら構築する能力を問われることを意味する。
日韓の海軍協力は、その試金石となる。ホットラインすら機能しなかった日中関係の現実を前に、日本が選び取れる安定の形は何か——その答えを形にする動きが、今まさに始まっている。